「ChatGPTに頼んでも、毎回似たようなアイデアしか出てこない」——そう感じたことがあるなら、問いの立て方に原因がある。AIは問いの質を超えた答えを返せない。しかし「型」を使って問いを変えると、出力は別物になる。本記事では発想法の古典「SCAMPER法」をAIと組み合わせて使う手順を、実際のプロンプトと出力例を交えながら解説する。読み終えた頃には、今日からすぐ試せる状態になっているはずだ。
目次
- AIでアイデアを出しているのに、なぜかいつも同じになる問題
- SCAMPER法とは何か——7つの視点でアイデアを強制的に引き出す技法
- 実演——ChatGPTとSCAMPER法を実際にやってみた
- SCAMPER法×AIで使うときの注意点と限界
- SCAMPER法は発想技法の体系にある「1つ」に過ぎない
- まとめ——SCAMPER法×AIを試すための3ステップ
AIでアイデアを出しているのに、なぜかいつも同じになる問題
問いが単調だと、AIの答えも単調になる
ChatGPTに「新しいサービスのアイデアを10個出して」と聞くと、無難なアイデアが10個返ってくる。「もっとユニークなものを」と重ねても、少し言い換えただけの10個が来る。
これはAIの性能の問題ではない。問いの構造の問題だ。AIは与えられた問いに誠実に答えようとする。問いが平凡なら、答えも平凡になる。当然の帰結だ。
「型」を使って問いを変えると出力が変わる
発想法の世界には「強制的に視点を変える型」がいくつかある。その中でも汎用性が高く、ビジネスで長く使われてきたのが「SCAMPER法」だ。
この型をAIへの問いに組み込むと、出力の多様性がはっきり変わる。型が問いを強制的にずらすことで、AIが「普通に考えたら出ない角度」から素材を持ってくるようになる。
SCAMPER法とは何か——7つの視点でアイデアを強制的に引き出す技法
S・C・A・M・P・E・Rそれぞれが意味するもの
SCAMPER法は、アイデアの発想を7つの問いで強制的に引き出すフレームワークだ。各文字が異なる視点を表している。
| 文字 | 英語 | 問いの意味 | 問い方の例 |
|---|---|---|---|
| S | Substitute(代替) | 何かを別のものに置き換えたら? | 材料・素材・人・プロセスを変えたら? |
| C | Combine(組み合わせ) | 何かを組み合わせたら? | 2つの機能・目的・市場を合わせたら? |
| A | Adapt(応用) | 他の文脈から転用できないか? | 別の業界・時代・ユーザー向けにしたら? |
| M | Modify / Magnify(修正・拡大) | 変形・拡張・縮小したら? | 大きくしたら、小さくしたら、スピードを変えたら? |
| P | Put to other uses(転用) | 別の使い方があるか? | 違う顧客・違う状況で使うと? |
| E | Eliminate(削除) | 何かを取り除いたら? | なくしても成り立つ機能・工程・要素は? |
| R | Reverse / Rearrange(逆転・再配置) | 逆にしたり、順番を変えたら? | 役割を逆転させたら、ステップを入れ替えたら? |
表:SCAMPER法の7要素。各視点が「問い」として機能する。
SCAMPER法が発想の「手詰まり」を解消する理由
人は自由に考えようとすると、慣れた文脈に戻る。「新しいアイデアを」と言われても、脳は既知のパターンを組み合わせることで対処しようとする。
SCAMPER法は「S(代替)から考えてください」という制約を強制的に与えることで、この慣性を断ち切る。制約は創造の敵ではなく、手詰まりの特効薬だ。AIにこの制約を組み込むと、AIも同様の強制的な視点ずれが起きる。
実演——ChatGPTとSCAMPER法を実際にやってみた
ここからが本記事のメインだ。実際にChatGPTと一緒にSCAMPER法を回した過程を、プロンプトと出力例を交えて見せる。素材には「法人向けのオンライン研修サービス」を使った。架空の設定だが、ビジネス現場に近い題材として選んだ。
使用したプロンプトの全文(コピー可)
以下が実際に入力したプロンプトだ。SCAMPER法の7視点を1つずつ問う構造にしている。この枠全体をコピーして、素材部分だけ書き換えれば、自分のテーマに転用できる。
あなたは発想法の専門家です。
以下の素材に対して、SCAMPER法の各視点から新しいアイデアを引き出してください。
【素材】法人向けのオンライン研修サービス(動画視聴型)
各視点について、具体的なアイデアを2〜3個ずつ出してください。
答えは実現可能性より「面白さ」「意外性」を優先してください。
S(代替):動画コンテンツを別の形式に置き換えるとしたら?
C(組み合わせ):他のサービスや体験と組み合わせるとしたら?
A(応用):別の業界・文脈に転用するとしたら?
M(修正・拡大):規模・スピード・密度を変えるとしたら?
P(転用):想定していない使い手や場面で使うとしたら?
E(削除):今ある要素を1つなくしてみたら、どうなる?
R(逆転):役割や順序を逆にしたら、どんなサービスになる?
S(代替)を試した結果と気づいた使い方のコツ
ChatGPTからの出力(S部分の抜粋)は以下のようなものだった。
S(代替)の視点から:
1. 動画を「音声のみ(ポッドキャスト形式)」に置き換える——通勤中・作業中に”ながら受講”できる研修に
2. 動画を「マンガ・ビジュアルストーリー」に置き換える——読了率が上がり、内容の記憶定着も変わる
3. 動画を「リアルタイム対話のみ(録画なし)」に置き換える——録画物のない研修で”その場にいる意味”を作る
「音声のみ」の案は最初、地味に見えた。しかし「社員が通勤中に研修を受けられる」という業務効率の観点から見ると、実装価値のある発想だと気づいた。SCAMPER法の効果は「使えるアイデア」を直接出すことではなく、「普段思わない方向を強制的にずらすこと」にある。

C(組み合わせ)・A(応用)——アイデアが意外な方向に広がった
C(組み合わせ)では「研修 × ゲーミフィケーション」「研修 × 採用(内定者フォロー)」「研修 × 外部コミュニティ参加」という3案が出た。
A(応用)では「学校向けに転用」「医療スタッフ向けの技術研修に転用」「海外拠点の現地社員向けにローカライズして転用」という方向が出た。「海外拠点向け」は、対象として意識していなかった層への展開案として、検討対象になりうる質のアイデアだった。
ここで重要な点を一つ書いておく。AIが出したアイデアをそのまま採用するのではなく、「この方向は検討に値するか」という判断を人間がする。AIの役割は「思考の材料を量産すること」であり、選択と評価は人間の仕事だ。
M・P・E・R——残りのステップを一気にやってみた
残りの4ステップから、印象に残ったアイデアを抜粋する。
- M(修正・拡大):「1回の研修時間を5分に圧縮したら?」→ マイクロラーニング型の設計案が出た
- P(転用):「受講者ではなく、研修講師を育てるプラットフォームにしたら?」→ 顧客の定義が逆転する発想
- E(削除):「テストと評価をなくしたら?」→ 評価プレッシャーがない学習環境の案。動機付け研究の観点から面白い
- R(逆転):「会社が社員に教えるのではなく、社員が会社に提案する形式にしたら?」→ ボトムアップ型の社内勉強会へ発展する可能性
7ステップを全部回すと、「普通に考えたら出なかった角度」が複数出てくる。そのほとんどはすぐに使えない。しかし10個に1個、「これは少し掘れる」という素材が混じる。それがSCAMPER法の実際の機能だ。
SCAMPER法×AIで使うときの注意点と限界
すぐに試せるテーマと、向いていないテーマの違い
SCAMPER法は「既存のもの」を素材にする技法だ。すでに形があるもの(製品・サービス・業務プロセス・コンテンツ)を変形・組み合わせ・削除することでアイデアを引き出す。
向いているテーマは「現行サービスの改善案」「既存プロダクトの新市場開拓」「業務フローの見直し」など、素材が明確なもの。向いていないのは「まったく新しいジャンルを1から作りたい」という場合だ。素材がないと、SCAMPER法は動かない。
AI出力はあくまで「素材」。仕上げは人間の判断で
実際に試してみて気づいた落とし穴がある。AIが出したアイデアの中に「言葉は面白いが、実装を考えると成立しない」ものが混じる。これをフィルタリングする能力は、AIではなく人間が担う。
「AIが考えてくれた」という感覚は危険だ。正確には「AIと一緒に考えた」であり、責任と判断は人間にある。SCAMPER法×AIは「発想の速度を上げるツール」であって、「正解を出すシステム」ではない。
また、同じプロンプトを繰り返し使うと、出力が似てくることがある。その場合は「さらに意外な方向で考えてください」「現実的な実現可能性は一旦無視して」などの追加指示でリセットできる。
SCAMPER法は発想技法の体系にある「1つ」に過ぎない
アイデア発想の技法はSCAMPER以外にも多数ある
本記事で使ったSCAMPER法は、AIと共に使える発想技法のひとつだ。他にも「AIにペルソナを演じさせる技法」「あえて逆のアイデアを強制する逆張り発想」「連想を4分類で広げる手法」など、目的や素材に応じた技法が体系として存在する。
技法が変われば、同じ素材からまったく異なる角度のアイデアが出る。SCAMPER法で出なかった発想が、別の技法では出ることがある。
今日試したSCAMPER法も含め、AIと共に考えるための発想技法を56個体系化した実践書があります。体系で持っておきたい方はこちら。

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まとめ——SCAMPER法×AIを試すための3ステップ
本記事で実演した手順を、今日から試せる形に圧縮する。
STEP1:素材を決める
自分が改善・発展させたい商品・サービス・業務プロセス・コンテンツを1つ決める。「既存のもの」であれば何でも素材になる。「今取り組んでいる企画」「担当しているプロダクト」で十分だ。
STEP2:プロンプトを入力して7ステップを一気に回す
本記事に掲載したプロンプトをコピーし、【素材】の部分だけ書き換えてChatGPTに貼り付ける。7視点すべてを一度に問うことで、AIが各視点から順番にアイデアを出してくる。所要時間は入力から出力まで1〜2分だ。
STEP3:出力を「そのまま使う」ではなく「素材として加工する」
出てきたアイデアをリストアップし、「これは面白い」「これは現実的ではないが方向性は参考になる」「これは捨て」と評価する。そのまま使えるものを探すより、「この発想を起点に、自分なりに膨らませる」という使い方のほうが実用的だ。
- SCAMPER法は7つの強制視点でアイデアを引き出すフレームワークだ
- AIにこの型を組み込むと、通常の問い方では出てこない角度のアイデアが出る
- 出力の評価と選択は人間が担う。AIは発想の速度を上げるツールだ
- 素材が明確な「既存のもの」に向いており、ゼロからの新規創造には別の技法が必要な場合がある
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「もっと体系的に学びたい」と感じた方へ
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